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大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)2011号 判決 1970年5月13日

原告 安治川土地株式会社

右訴訟代理人弁護士 佐々木善一

同 江村重蔵

被告 株式会社三和銀行

右訴訟代理人弁護士 小林寛

同 久保井一匡

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、申立

(原告)

「被告は原告に対し金一、〇六八、九七七円およびこれに対する昭和三八年一二月一日から右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

(被告)

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。<以下省略>。

理由

原告が昭和二四年六月九日株主総会において解散を決議し、清算人として中西藤吉、田中貞蔵、内山正友、外村与左衛門の四名を、うち代表清算人に右中西を、それぞれ選んで同月二一日これらの登記をなしたこと、同年一二月一〇日一応清算事務を結了して翌二五年一月三一日その登記をなしたこと、その後中西は昭和二六年一一月一〇日、内山は昭和二九年一二月二三日、田中は昭和四二年二月二日それぞれ死亡したこと、昭和四四年一一月一二日代表清算人中西、清算人内山、同田中死亡の登記及び右清算結了登記を抹消する手続がなされたことは、<証拠>により明らかである。

原告は、右のように清算人を複数選び、そのうち一人を代表清算人に選んだが、一人の清算人を残して代表清算人を含む他の清算人が死亡した場合には、商法上清算人は一人でも差支えないのであるから、残存した清算人は当然清算会社を代表する権限を有することになり、清算会社を代表して適法に訴を提起することができると主張するので、この点について検討する。昭和二五年改正(施行は昭和二六年七月一日)前の商法の清算に関する規定によれば、清算人は各自会社を代表できるのが原則であったが、定款もしくは株主総会の決議によって清算人のうちで会社を代表すべき者(代表清算人)を定めることができることになっていた(第四三〇条、第二六一条)。従って本件の場合中西は株主総会の決議によって代表清算人に選任されたので、同人のみが原告を代表する権限を有していたものである。ところが右改正法の規定によると清算人は各自会社を代表する権限はなく、代表清算人も清算人会において清算人のなかから選ばれることとなった。なお「商法の一部を改正する法律施行法」第二条は新法遡及的適用の原則を定め、清算に関する例外規定として第四五条、第二一条をおいているが、右例外規定によるも中西が改正法施行後も代表権をもつということになるにすぎない。従って、改正法施行後代表清算人の中西が死亡すれば、残存した清算人が清算人会を開き、代表清算人を選任してその者に代表権を行使させなければならない。ところが、本件においては生存している清算人は外村一人にすぎない。本件のように株主総会において複数の清算人を選任し、内一名を代表清算人に選任した場合、株主総会で表現された株主の意思は、代表権のない清算人に対し代表者が外部的に会社を代表するについて内部的に意思形成に参加し、代表行為を監視する等の役割を与えたものと解すべきであって、外部的に会社を代表する役割まで与えたものと解されないことは言うまでもない。従って、現行商法上清算人は二人以上選任されねばならないものか否かについてはともかく、株主総会において二人以上選ばれた以上、右のような趣旨から考えて、残存した一人の清算人に当然に代表権が生ずるものとはとうてい解しがたい。

よって、本件の場合外村には原告を代表する権限はないことになり、原告を代表して提起した本件訴訟は不適法として却下さるべきこととなる。<以下省略>。

(裁判長裁判官 北浦憲二 裁判官 安木健 裁判官岡山宏は転任のため署名捺印できない。裁判長裁判官 北浦憲二)

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